遺伝子組み換え食品と農薬野菜が大好きなニッポン。どこの国よりも多く遺伝子組み換え食品を輸入し、どこの国よりも多く農薬を使用して野菜を育てている。スーパーで売られている食品の60%は遺伝子組み換え食品で、80%の食品が遺伝子組み換え作物かかわっているという。しかも、表示に関する法律はどれもほんとんどがザル法らしい。
レイチェル・カーソンは「人類全体を考えたときに、個人の生命よりはるかに大切な財産は、遺伝子であり、それによってわたしたちは過去と未来につながっている」と語った。
――この遺伝子に影響がおよぶのは「わたしたちの文明をおびやかす最後にして最大の危険」なのです。
その遺伝子レベルで問題になるのは、たとえば、遺伝子組み換え操作により作り出した組み換え作物にように「人がある生物の『あり方』を決めることにつながってしまう」という生物論理にかかわるものです。組み換え作物とは、ある生物から取り出した有用な遺伝子えを別の生物に組み込むことによって、病気や害虫に強いなど新しい性質を加えた作物のことです。
他方、その遺伝子レベルへの影響が問題になるのは、化学物質や放射能のように。「他人が、ある人間の『あり方』を決めることにつながってしまう」という人間倫理にかかわるものです。ここでの『他人』とはこれまでに化学物質や放射能を作り出した人間であり、『ある人間』とは将来世代の人間のことです。
今日、人間をとりまく地球環境が深刻な危機に陥っていることについては、さまざまに論じられています。こうした問題に対して、単に技術的、プラグマティックにアプローチするのみでなく。「自然とは何か、人間とはいかなる存在か、人と自然はどのようか、自分と他人との関係はどのようか」などの究明をふまえて、そこから問題を倫理的に考察していくものでなければならない。――
遺伝操作技術の発達は、効率的に食物を収穫するためだけのはなしではなく、人間に応用されることによって「優生学」という思想が再び危惧されている。遺伝操作によって不良な遺伝子を持つ者を排除し、優良な子孫のみを増やすという思想でる。かつてドイツのナチスにおける優生政策など、人間は過去に大きな過ちを犯してきた。伝操作技術の進歩によって私たちの健康への恩恵は多大だが、越えてはいけない境界を慎重に見極めるべきである。
そのためには、欲を捨てて自然と向き会あい謙虚に生きなければならない。レイチェルは、「センス・オブ・ワンダー=自然や生命の神秘さや不思議さに目をみはる感性」が大事だと言う。
――子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒豊かな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌だ。幼い子ども時代は、この土壌を耕す時だ。美しいものを美しいと感じる感覚。新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになる。そのようにして見つけ出した知識は、しっかりと身につきます。――
レイチェルが生まれたのはアメリカのペンシルベニア州であり、今でも多くのアーミッシュが住んでいる場所だ。それより北がニューイングランド地方であり、グランマ・モーゼスの絵の舞台となった自然が豊かな場所でり、ターシャ・テューダーが自給自足の生活をする為に移り住んだ場所であり、レイチェルに影響を与えたた場所でもある。
エミリ・ディキンソンという女性の詩人がいる。エミリは1830年のマサチューセッツ州の田舎町の上流家庭に生まれ育ち、50数年の生涯の後半ほとんどを家から出ることなく過ごした。その作品は生前には数点しか世に出ることはなく、全く無名の人として人生を終えた。ところが死後に、クローゼットに眠る数千の詩作品が妹によって発見され、編集出版された。作品は忽ち広く読まれるようになった。
「ひとつの心がこわれるのを」 エミリ・ディキンソン
ひとつの心がこわれるのを止められるなら
わたしが生きることは無駄ではない
ひとつのいのちのうずきを軽くできるなら
ひとつの痛みを鎮められるなら
弱っている一羽の駒鳥(ロビン)を
もういちど巣に戻してやれるなら
わたしが生きることは無駄ではない
(訳:川名澄)
「If I can stop one Heart from breaking」 Emily Dickinson
If I can stop one Heart from breaking
I shall not live in vain
If I can ease one Life the Aching
Or cool one Pain
Or help one fainting Robin
Unto his Nest again
I shall not live in vain
自然風土が人を育てるというように、感性を育むには環境が大事だ。
レイチェル・カーソン、エミリ・ディキンソン、ターシャ・テューダー、グランマ・モーゼス、が作品を生み出す感性は環境があるからこそだ。しかし、コンクリートだらけの都会で、落ちこぼれないように相手を蹴落としてでも這い上がらなければならない現代社会で、感性を育むことは容易ではないだろう。
レイチェルとエミリ生涯独身だったし、ターシャは50歳代半ばから自給自足の一人暮らしを始めた。感性を育むには、現実と少し距離を置いたり、孤独に身を置くことも必要だと思う。そうすれば、自分自身と向き合えることが出来るし、こころの中に自然が芽生えてくるだろう。
そして、小さな自然や、小さな命に耳を傾けたり、食べ物に気を配ったり、レイチェルの本を読み、エミリの詩を読み、ターシャの絵本を読み、グランマ・モーゼスの絵を見て感性を育んでいきたい。
(2019年12月7日)