落ち葉のころ

木枯らしが吹く空き地の日だまりで野良猫といっしょに暖まる。
谷郁雄さんは日だまりのような詩人だろうと密かに思っている。

「日だまり」 谷郁雄

人は空には
暮らせない
水の中にも
暮らせない

空を見上げ
水を恐れ
人はやっぱり
地上で生きてゆく

花にもなれず
木にもなれず
鳥にもなれず
歩き疲れてうずくまる

そこはガードの下の
小さな日だまり
人に生まれたことの喜びを
しみじみとかみしめる場所

「ゴーイング・ホーム」 谷郁雄

ぼくは多くを
望まない

持っていたいものは
ごくわずか

風に鳴る
電線や

小さな
日だまり

世界はそんな
細部から
作られてある
それさえも
ポケットに入れて
持ち帰れない

今日も
小さな家へと
帰ってゆく

小さな家の
小さなベッドの上で
楽しかった一日
思い出す

谷郁雄(たに・いくお)さんは1955年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始める。90年『死の色も少しだけ』(思潮社)で詩人デビュー。93年『マンハッタンの夕焼け』(思潮社)がBunkamuraドゥマゴ文学賞最終候補作に。ホンマタカシやリリー・フランキーなど、さまざまな写真家や表現者とのコラボで多数の詩集を刊行。著書は30冊を超える。
作家は「処女作に向かって成熟しながら永遠に回帰する」とは文芸評論家の亀井勝一郎さんの言葉。谷郁雄さんは年齢が増すにつれて純度が増している。作家に限らず誰でも初めて抱いた夢に回帰できるだろう。俗世に染まった自分でも黒い欲望をひとつずつ捨て純化していくのだ。

「真っ白な未来」 谷郁雄

子供たちには
何も残さなくてもいい
きれいな空気と水と緑
高い青空を残したい

子供たちには
何も残さなくてもいい
夢みる自由と
真っ白な未来を残したい

子供たちには
何も残さなくてもいい
大人たちと共に生きた
楽しい思いでを残したい

子供たちには
何も残さなくてもいい
人を信じる心と
自分を信じる力を残したい

年端を重ねて老境にさしかかると欲しいモノも無くなってくる。近代社会の大人たちは「子供たちには何も残さなくてもいい」どころか、未来人たちの空気と水と緑と夢を搾取して生きている。
かつて共同体で生きていた人間は有限な世界の中に自足していた。近代社会はこの有限を解体し欲望を無限に追及する病に憑かれた時代だ。
レオ・バスカーリ著の『葉っぱのフレディー』のように、古い葉っぱは風に乗って大地に帰り、若い葉っぱの栄養分にならなけらばならない。それが命のバトンを繋ぐことであり自然の法則である。
現実社会では、古い葉っぱは利権を使い屍のようになっても自ら落葉しないどころか、若い葉っぱを殺してまでしがみついている。そして、若い葉っぱたちは「私たちの未来を奪うな!」と叫び始めている。
16歳のグレタ・トゥーンベリさんはたったひとりで、気候変動に対する政府の無策に抗議するためにストライキを始めた。
2019年9月23日、ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットに出席し、地球温暖化に本気で取り組んでいない大人たちを叱責した。

〈スピーチ全文(和訳)〉
あなた方は、私たち若者に希望を見いだそうと集まっています。よく、そんなことが言えますね。あなた方は、その空虚なことばで私の子ども時代の夢を奪いました。
それでも、私は、とても幸運な1人です。人々は苦しんでいます。人々は死んでいます。生態系は崩壊しつつあります。私たちは、大量絶滅の始まりにいるのです。
なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よく、そんなことが言えますね。
30年以上にわたり、科学が示す事実は極めて明確でした。なのに、あなた方は、事実から目を背け続け、必要な政策や解決策が見えてすらいないのに、この場所に来て「十分にやってきた」と言えるのでしょうか。
あなた方は、私たちの声を聞いている、緊急性は理解している、と言います。しかし、どんなに悲しく、怒りを感じるとしても、私はそれを信じたくありません。もし、この状況を本当に理解しているのに、行動を起こしていないのならば、あなた方は邪悪そのものです。
だから私は、信じることを拒むのです。今後10年間で(温室効果ガスの)排出量を半分にしようという、一般的な考え方があります。しかし、それによって世界の気温上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は50%しかありません。
人間のコントロールを超えた、決して後戻りのできない連鎖反応が始まるリスクがあります。50%という数字は、あなた方にとっては受け入れられるものなのかもしれません。
しかし、この数字は、(気候変動が急激に進む転換点を意味する)「ティッピング・ポイント」や、変化が変化を呼ぶ相乗効果、有毒な大気汚染に隠されたさらなる温暖化、そして公平性や「気候正義」という側面が含まれていません。この数字は、私たちの世代が、何千億トンもの二酸化炭素を今は存在すらしない技術で吸収することをあてにしているのです。
私たちにとって、50%のリスクというのは決して受け入れられません。その結果と生きていかなくてはいけないのは私たちなのです。
IPCCが出した最もよい試算では、気温の上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は67%とされています。
しかし、それを実現しようとした場合、2018年の1月1日にさかのぼって数えて、あと420ギガトンの二酸化炭素しか放出できないという計算になります。
今日、この数字は、すでにあと350ギガトン未満となっています。これまでと同じように取り組んでいれば問題は解決できるとか、何らかの技術が解決してくれるとか、よくそんなふりをすることができますね。今の放出のレベルのままでは、あと8年半たたないうちに許容できる二酸化炭素の放出量を超えてしまいます。
今日、これらの数値に沿った解決策や計画は全くありません。なぜなら、これらの数値はあなたたちにとってあまりにも受け入れがたく、そのことをありのままに伝えられるほど大人になっていないのです。
あなた方は私たちを裏切っています。しかし、若者たちはあなた方の裏切りに気付き始めています。未来の世代の目は、あなた方に向けられています。
もしあなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら、私は言います。「あなたたちを絶対に許さない」と。
私たちは、この場で、この瞬間から、線を引きます。ここから逃れることは許しません。世界は目を覚ましており、変化はやってきています。あなた方が好むと好まざるとにかかわらず。ありがとうございました。

環境破壊が原因で毎年900万人が死んでいる。
何度も終わりが迫っていることを告げられてきた資本主義は、延命のために「人間」という概念を捨て地球の生態系の破壊し続けている。
現代社会は岐路に立っている。
人生は小説のようなもの。どんなエピローグは書くかは自分次第である。

(2020年12月31日)

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