愛しあってるかい!

ニール・キャサディが運転する “ファーザー・マジック・トリップ・バス” がジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、オーティス・レディング、ジェリー ・ルービン、リチャード・ブローティガンたちを乗せて今でも走っている。腹が減ったらオーガスタス・スタンレーが作ったアシッドを入れたサンドイッチとエレクトリック・クール・エイドをディガーズのエメット・グローガンがタダで配ってくれる。誰もが自由で哀しいほど優しい若者たちの “旅” だ。
カーラジオがエリック・バードンの「モンタレー」を唄っている。

ある者は聴きに、ある者は唄いに、またある者は花をあげにやって来た
若い神々は観客にほほえみかけ、生まれたての愛の音楽をかなで
子どもたとは昼となく夜となく踊り続けていたよ、モンタレーで

バーズがエアプレインが空を飛び、ああ、ラヴィ・シャンカールが僕を泣かせた
ザ・フーは炎と光炸裂させ、デッドは人々の度肝をぬき
ジミ・ヘンドリックスは世界を火にくべ、燃え上がらせたんだ

観客の間を笑顔浮かべながら、プリンス・ジョーンズは動き回っていた
一万ものギターがにぎやかに高らかに、それはぎきげんに鳴っていたよ
人生の真実を知りたいのなら、いいかい、音楽を聞きのがしてはいけない

3日間みんなで一緒になって動き、体揺らしながらわかりあったのさ
おまわりたちまでが、ぼくらと一緒になって楽しんでいたなんて信じられるかい
モンタレーで、モンタレーで、あの南の町、モンタレーで
(エリック・バードン 「モンタレー」)

60年代の若者たちが共有していたのは、“高度に発達した産業社会の統制と社会組織の改造をゆだねるテクノクラシーへの徹底した嫌悪感” だ。政府や大企業の権力者たちが、武装した警察や軍隊が暴力を使って民衆を押さえこむことに、若い反逆者たちは、この頃いっせいに立ち上がり異議を申し立てたのだ。
“ラブ&ピース” の時代は同時にアンチ・オーソリティ、反権力の戦いへとつながる時代でもあったのだ。自分たちが生活する場所をもっと自由な場所にしなくてはならないと、世界中の多くの若者を社会変革、制度改革にめざめさせた。その大きな引き金となったのは、ベトナム戦争だった。世界の警察官を自任したアメリカ合衆国がアジアの片隅の小国で50万人という兵力を投入して理不尽な殺戮を続けていることに誰が無関心でいられただろうか。
60年代は、“若者文化” が世界が初めて産声を上げた時代。わけのわからない戦争に加担する国や政府、古くさい道徳、価値観を押しつける社会や学校にベロを出し、自分たちの自由と楽しみとアイデンティティを求めて、それぞれの “旅” をしていた若者たちだった。

わたしは神の子と出会ったの
彼は道ばたを歩いてた
わたしが どこへ行くの? と訊くと
彼はこう答えた
ヤスガーの農場に行くんだ
ロックンロール・バンドを観に行くんだ
向こうでキャンプをするんだよ
自分の魂を自由にしてみようと思うんだ

わたしたちは星屑
わたしたちは黄金
あの農場に戻って
わたしたちは自分自身を取り戻す

だったら 一緒に行ってもいい?
都会はもうたくさんなの
自分が歯車みたいな気がして
毎年そういう時期があるのかもね
それとも もしかして人類がそういう時期なのかも
あたしは自分自身を見失ってる
でも生きているって学ぶことだものね

わたしたちは星屑
わたしたちは黄金
あの農場に戻って
わたしたちは自分自身を取り戻す

ウッドストックに着くころには
私たちは50万人の大群になっていた
いたるところに歌があり 祝典があった
そこでわたしは爆撃機の夢をみたの
ショットガンにまたがった人が空を飛んでるのよ
そしてそれは蝶々になった
わたしたちのこの国の上空で

わたしたちは星屑
何億年という年月を経た炭素
わたしたちは黄金
悪魔との取り引きにしばられた
だからあの農場に戻って
自分自身を取り戻さなくては
(「ウッドストック」 ジョニ・ミッチェル)

1969年の熱い夏、ニューヨークの郊外で行われたウッドストックは、あまりにも多くの若者たちが集まって急遽フリーコンサートとなり、MCのジョン・モリスが主催者たちの決定を伝えると、歓声とおどろきの声が丘を包んだという。
「ただし、フリーというのは好き勝ってにしていいということじゃないんだ」モリスは続けて語った。「このイベントを企画した人々は莫大な赤字を負うんだ。それでも彼らはお金よりもきみたちが最高の状態で音楽を楽しんでもらうことがずっと重要だと考えている。だから忘れないでほしい。今夜、森の中やいまいる場所で眠りにつく時、きみたちの隣にいる人間がきみの兄妹ってことを。そうやってお互いがいたわりの気持ちで接してくれなければ、この催しの意図はオジャンだ。これから先、この祭りの成功はきみたち、ひとひとりが担うんだ」
このお祭り50万人もの若者たちが集まったが、争いがひとつもなかった。若者たちは最高の笑顔を最良の態度で、心をひとつにして愛のパワーの大切さ、おたがいを思いやるという素晴らしさを、自分たちの望む社会の姿を世界に示して見せたのだ。
主宰者のマイケル・ラングは、コンサート終了後に機材をすべて欲しい人にくれてやったという。“みんなですべてを分けあう” これがヒッピーの哲学なのである。

私は有り金もなくなってベイトン・ルージュで当てもなく列車を待ってた
心はまるで擦り切れたジーンズのよう
そんなときボビーが大雨が来る前に、ディーゼルトラックをヒッチハイクした
トラックは私たちを乗せて、ニュー・オーリンズへ向かって走り始めた

私は汚れた赤いバンダナから、ブルースハープを引っ張り出して
ボビーが歌うブルースのかたわらでやさしく吹いてたわ
フロントガラスを行き来するワイパーのリズムに合わせて
私はボビーの手を自分の手の中にしっかり握って
それで、運転手の知ってる歌をかたっぱしから歌ったの

自由っていうのは、失うものが何もないってことよね
けど自由じゃなかったら、そもそもなんにも、なんにも始まらないじゃない
でも、気分がよくなるのは簡単よ、ボビーがブルースを歌ってくれれば
それで気分がよければ、私は、それで十分
それでよかった、私と私のボビー・マギーには

ケンタッキーの炭鉱から、カリフォルニアの太陽へ
ボビーは私の心の秘密を分かち合ってくれた
いろんな天気の中を走りぬけ、たくさんいろんな事をしてすごした
そう、ボビーが私を外の冷たい世界から守ってくれていたのよ

そしてサリナスの近くまで来た日、私は彼が去って行くままにした
彼は故郷を求めていたし、私もそれが見つかればいいと思ったの
でも、本当は、彼の体にぴったりくっついていられるんだったら
そんなたったひとつの昨日を手に入れられるなら
私の明日を全部売ってしまってもいいとまで思ったわ

自由って、失うものが何もないってことね
ボビーが私に残してくれたのは自由、でも自由だけで何もなくなっちゃった
でも、気分がよくなるのは簡単よ、ボビーがブルースを歌ってくれれば
それで気分がよければ、私は、それで十分
それでよかった、私と私のボビー・マギーには

ねえ、私のボビー 私のボビー・マギー
ああ、 あの人は私の恋人、 私の男
あの人は私の恋人。 できるだけのことはしたんだけど
ねえ ボビー、 ねえ ボビー・マギー
(「ミー&ボビー・マギー」 ジャニス・ジョップリン)

1973年、学生運動が悲劇的なかたちで終演し “若者” は消滅した。“若者” だというだけで、何者であるか分かり合えるような、“ラブ&ピース”とか “長髪&エレキギター” というような共通感官が消え、音楽市場はギャングや大企業に乗っ取られ、自由も理想もあっという間に蝕まれていった。
リベラリズムの世界では、格差社会となり貧困が拡大し “自己責任” というスローガンによって、経済戦争に中に放り込まれ無意味な戦いをさせられている。人々はどんどん孤立し孤独になっていき、亀裂が生じ不安が蔓延した社会で、人々は拝外的や攻撃的になる。過酷な競争社会は、安定した社会基盤を失わせ、社会の流動化を加速さる。その結果、価値観を共有しうる相手だけと関係を紡ぎ、そこで世界を閉じることで、安定した拠り所を確保しようとする傾向を強めている。

私は生きたい、私はありたい
私は一人の美しい心を求める探求者でありたい。
それは私が決してあきらめないという意思表示で
私は金の心を探し続けてるんだ
そうして私は年をとって行く
私は探し続けている美しい心を
そして私は年をとって行く

私はハリウッドに行ったし、私はレッドウッドに行った
私は美しい心を求めて海を渡った
私は自身の気持ちのまま、それが良い道のりと
そうして私は美しい心を探し続けてるんだ
私は美しい心を探し続けるんだ
美しい心を探し続けてながら
そうして私は年をとって行く

私は探し続けている
美しい心をもとめて
君も探し続けている
美しい心をもとめて
そうして私は年をとって行く
私はひとりの探求者でありたい
美しい心を求める
(「ハート・オブ・ゴールド」 ニール・ヤング)

あの時代にもどることはできない。しかし、自分を変革して自由になることはできる。
あの時代のの運動家はエゴや野心につき動かされることがあったにしても、貧しい人々のことや、苦悩、不平等、不正義などについて真面目に考えていたものだった。人びとへの愛や、自分の人生を他人のために喜んで犠牲にしようという気持ちが強かったように、おたがいを思いやるという気持ちがあれば自由になれるのだ。そして、いつでも “ファーザー・マジック・トリップ・バス” に乗って、“旅” することができるのだ。
オーティス・レディングの声が聞こえる。
“愛しあっているかい?”

(2018年12月11日)

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