海達公子(かいたつきみこ)1916〜1933
大正5年(1916)8月23日長野県飯田市に生まれ、父親の仕事の関係で荒尾市で育つ。大正12年に荒尾北尋常小学校(現在の荒尾第二小学校)入学、昭和4年には高瀬高等女学校(現、玉名高校)へ進学。高等女学校卒業式の日に急病で倒れ、同月26日に17歳で死去。小学校1年生の頃から児童自由詩や童謡を作り始め、2年生の時「とがったひしのみ うらでもずがないた」という詩を文芸雑誌「赤い鳥」へ投稿。これを北原白秋が絶賛、「赤い鳥の大正13年7月号」に掲載されます。その後、児童文学誌や新聞・雑誌に次々と作品を発表し、全国的に知られるようになる。
『お日さん』海達公子(詩火線社/1925)
『金の雲と雀』海達公子(私家版/1927)
『海達公子「赤い鳥」の少女詩人』規工川祐輔著(熊日出版/2004)
『海達公子童謡集』海達公子(トライ出版/2010)
【夕日】
もうすこしで
ちっこうの
さきにはいる
お日さん
がたにひかって
まばゆい
まばゆい
【お日さん】
お山の上が
光り出した
お日さんの
上る道
あすこ
あすこ
【夕方】
なたねが
きいない
向ふの方に
人のせた馬が
ぼつぼつ通る
【ゆうだち】
ゆうだち
ゆうだち
ばらのはが
おどり出した
【ゆうだち】
ゆうだち
やんで
日がてった
白い
にわとり
こけつこう
【ばら】
まっかい まっかい
ばらの花
目にはいってるうちに
目つぶって
母ちゃんに
見せにいこう
【やなぎ】
ゆれている
やなぎを
見ていたら
すずめがとまって
ないていた
【ぼたん】
まっかな
ぼたん
今洗った
私の顔
【手】
しょうじのそばへ
手をやったら
うす寒かった
雨の音がまだしてゐる
【雨上がりの朝】
雨上がりの庭の
明るさ
ばらのつぼみが
はちわれそうだ
【秋の朝】
朝顔が少ししか
咲かんようになった
こほろぎが
どっかでないてゐる
足にさはった夏水仙の花も
しぼんでゐる
【百舌鳥】
まだ刈ってない
田をはさんで
百舌鳥が二匹でなきあった
朝日の光のつめたさよ
【落穂ひろひ】
麦の穂をひらふ
おばあさん
袋をかろうてゐる
どこのおばあさんだらうか
【ぬくいおえん】
ぬくいおえんにすわって
山の方をみてゐた
うすい霧のひいた山に
はぜ紅葉がぼうとみえてる
ぽんぽん
てまりの音がはずんでゐる
【日の暮】
汽車の音も
とうとうきえてしまった
野菜のすぢが
白く光っている
見上げた空が
半かけ月が
こほってゐた
【ひし】
とがった
ひしのみ
うらで
もずが
ないた
【すすき】
さら さら すすき
お山のすすき
おててのばして
なにさがす
あおいお空に
なにさがす
【てふてふ】
てふてふが
ひらひらとんできた
もちっと向ふへ
とんでいけ
あまちゃの花が
さいている
【学校】
学校へきたら
たった一人であった
机たたいたら
教室一ぱいひびいた
【おみや】
おみやの
たつおと
たん たん たん
大きいまつの木に
ひびいている
【まつむし】
まつむし
なき出した
青い山
【うき草】
小さい小さい
うき草
池いっぱいで
あゆべそう
【かげ】
お日さんが
青い田の上を
白いくもにのって
はしっていった
【にじ】
にじがたった
三日月さんより
大きいな
三日月さんより
きれいだな
【白い朝顔】
歯がうつって
うすい青い朝
そばへ行ってみたら
白光りに
光ってゐて
蟻が一ぴき
おくの方を
はうてゐた
【お日さん】
雲雀と雲雀と
なきあってゐる
まん中に
白いお日さんがういてゐる
【星】
星が
遠いあかりのやうだ
むしの声にきえさうだ
【ばらのつぼみ】
がくのひらいたばらのつぼみ
つまんで
はなしかかったら
指をついてふくらんでくる
山本さんが
「海達さんいこ~い」と
さそひにきなさった
【川口】
ときわの穂が
夕風になびいてゐる
川口へ来た
あびてゐる
みんなの声をとほして
高々と帆をあげる音
吹きとばされさうになった
帽子をおさへた
沖の光に
かもめが飛んだ
【畠】
もう御大典もすんだ
畠をすく馬の息が
ぽつぽつすすんでいく
向こうの畠の青葉、朝陽ににほひそうだ