高岡和子(たかおかかずこ)1946〜1964
子供のころから詩作に関心を持ち、中学1年からひそかに詩人をめざして高校2年まで抒情詩をひたすら書き続けた。1964年2月の夜に湘南海岸にノートを残して消息を絶ち、大島付近の海上で遺体となって発見された。三日三晩、波風にさらされたノートには、高校1年から高校3年までの日記や思索したことが書かれていた。死後に初めて作品の数々が発表され、伊藤整や串田孫一も手記の出版に際し、夭折した彼女を惜しんだ。
『雨の音』高岡和子(私家版)
『さようなら十七才 〜若き詩人の手記〜』高岡和子(大和書房/1968)
『さようなら十七才 海と心の詩』高岡和子(リーダーズノート/2012)
【未来を作る】
未来を作る
私の未来はだれも知らない
それは私が作るものだ
私だけの力で
或いは他の人の力も借りて
しかしだれにも指図はさせない
受入れるのは忠告だけだ
【から松】
から松の林は心の悲しみを思い出すところ
高いこずえから降ってくる木もれ日の雨は
悲しい思い出をより美しくするため
下草の仄暗い緑は
湧き上る哀愁をやさしく愛撫し
すずしい静寂は
熱っぽい頬をきりりとひきしめる
から松の木木は
黙って私を現実からひきはなすため
【夜】
夜は
一人一人を暖かくつつむ
うるさい他人や
わずらわしい生活
すべてのものを
遠ざけてくれる
夜はやさしい
静かにやって来て
私のそばで見守っている
夜は大きなお母さんだ
その手の中にかくれて
私だけの世界を作ろう
【秋の雨】
空を見上げたら
秋の雨がひとつぶ目の中におちた
つめたい雫の感触は目から心にたちまち伝わり
心はあふれ出る寂しさを抑えることができない
雨は降り続く
心の寂しさは雨に溶け雨はあらゆるものに
降り注ぎそしてすべて寂しい
これが秋――
雨がそれを教えてくれた……
【雨の音】
ポトンとおちた瞬間に
心もいっしょにふるえるような
雨の音
孤独を音にしたら
こんなふうになるだろう
【孤独】
夜霧のなかに
高架線が
きえるところにそれはある
石の壁にうつった
私の影の中に
それはある
【しゃぼん玉】
しゃぼんだまの中に
私の息吹をとじこめて
風に飛ばしましょう。
するとあなたの黒い瞳には
まあるい虹がかかります
まつげにふれて
パチンとはじけると
ほら、あなたの眼には涙が光る―――
しゃぼんだまは
ひとりごとのフェアリー
くちびるからもれるつぶやきを
あなたの耳にそっと運んでいきます
七色の光で美しく色つけをして―――
【無題】
ええ
私は、ふてくされて
高慢です
人のする事、なす事が
気に入らない
悪い子供です