菊地久之

菊地久之(きくちひさゆき)1911〜1935
「跋」たまに富山の町へ出る私は菊地君に會ふのを樂しみにしてゐる。出掛けるときには相等の話題を持つてゆくのだが、いざ會つて見ると別に話すこともなく、甲文堂の店先かどこかで、寒さうに對座して、二人とも満ち足りた氣持になつてゆく。まことに思へば不思議な友情である。君は貧しい。そして僕も貧しい。しかし君は絶對に嘘をつかない。絶對に節をまげない。絶對に出洒張らない。こんな人柄の詩人が世の中にざらにあるものではない。會て君が小さい頃からの苦勞をポツリポツリ話してくれたとき、私は涙を流し、よろこび、悲しんだのである。今や菊地君は第二詩集『鬼』を世におくる。眞實の友としてこんな嬉しいことはない。詩集に盛られたこれらの詩は、全部君の魂の苦闘によつてかち得たものである。涙を湛え、苦渋をのみこみ、かくて燃えあがる憤懣をおし殺し、やがては聖なる境地を辿る人間的最高の道程を示すものである。菊地君は嘘やかざりで詩を書いてゐないのだ。どの一篇、どの一篇にも血のにじむ苦闘の歴史が輝いてゐるのだ。「鬼」―怪奇な存在である。しかし私にはふくよかな體温を感ずる。この鬼は人間羅刹の苦しみを體験し、人の世の美醜を目のあたり目撃し、思念幾億年、尚幽邃なる陰影をひく所謂空假中にまたがる存在である。「鬼」よ、廣く、しかも永く人々の胸に食ひ入れ!そして涙と愛と眞實に生きよ!(詩集『鬼』より)

『バネ』菊地久之(詩と民謠社/1931)
『鬼』菊地久之(詩集鬼出版後援会/1935)

【雪の宴】
いくたびながれすぎた雲であることであらう
いくとせ循りきた雪であることであらう
つらなれば
そらを ヒマラヤの山山へ吹かれる雲
 しらじらと朝明けを
この雪は觸れることもない聖らかな處在
雲を抱かう 雲を冠らう
ふりこめられた貧しさにぬれよう
醉ひどれてまでまぎらはしてゐる
いつはりの假面を脱ぎすてよう
おほらかなまごころに 虐げに 指を折らう
ひたすらに もがく つばさに
昇天のねがひ悲しく盲ひ
しんと匂ふ化身にうち負かされる明日
頭(かうべ)にあやなせば 深くうなだれる背に
なんとした 大膽な凛とした翳を刻んだことか
汚れなくつくろへば
ふくいくとふりかかる匂(かぐ)はしい天女のいぶきにも似て
古今の示現
無心の食卓をかこんで
雪の潔癖に掌を藏ひこむのだ

【天邪鬼】
南無鬼子母神
一つを欲しがることは
限りなく失ふ 翌日(あした)
むちに堪へるまことは
なにもない佛座のほとりにあつて……

【一年の聲】
それでいい 嘆きなさるな 悔ひなさるな
みえがくれに辿る人生のひとすじ
花の下をうなだれて
かぐはしさに釋然と歩きなされ
流通無碍
さまよいは雲に架し
恍惚に坐しなされ
悲しみは杳(とほ)い追放
いきどほりは氷を碎く齒軋りにたえて
血みどろな掌を屈(ま)げ
ののしりのことばは みづからの卑しい戒め
笑ひまぎらし
不逞の良心を埋めなされ
陶然とまなこ据ゑれば
雲は 嶺に本然のすがた
孤獨はずんと布(し)かれまする
まことこそ
風にかへるこころに點(とぼ)されませうに

【尊者不易】

大らかなさとりは
昨日の俗心
龍巻はない
羅生門には もういのりはない
朱面を被るのは危惧だけだつた
渺々と脈うつのは
完(まつた)きものの相へ執念
天空むなしくあるとすれば無常は權門の彼方に

【鬼】
おのづから そなはり
闇だけあると知る あをい牙
ほのめきをうしろに
削られた十善は 蹠に埋れて
安坐でき得ぬ 荒彫の本性にさされる
とほい東洋(このくに)のまぼろし あやしく
人生の朱門に爪を弾けば
力なき無明の鬼になる日である

【一家】
    亡き生父に
わけなく集り
あてどなく歩き むなしく疲れる
東へ……
西へ……
孤りで行こうとするわかれ
ここは零落(おちぶ)れて みすぼらしく 肩をすぼめる世界
父も寂しさに ほほゑみ
ふりかへることなく
默つて 安堵のみちをいつたのだ

【獨身悲願】
南無觀世音菩薩
一夜を 好きなをんなと添はしめ給へ
花衣の裳をひらかし給へ
石ならば石のことばで結構でござりまする
なんとか 哀れみに ひとすじの黒髪を匂はしめ給へ
人間のことばを待ちますれば
なんのことはありません
嫉いたり 拗たり 疑ぐつたり
ちつとも あんたさま
めぐみの乳房をのぞかしてはくれませぬ
そゞろにはるが囘(めぐ)りますれば
素肌が眩ゆくてなりませぬ
南無三實 あんたさま
叶ふものならばどんなことでもいたします
わたしは淋しい二十五の童貞でござりまする

【米研ぎ】
米を研ぎ居れば
厨 ほのさむかり
妻 欲しとおもふ杳(とほ)きまぶたには
臥したる母のさもしき老にみだるゝ
眉消えて孕女(はらみおんな)はさぶしきぞ
なにをしのばんこの世のおきてぞ
男 二十五 米研ぎあれば
物哀れなりけむ
七八粒 こぼし居るなり

【觀音戀慕】
非のうちどころのない おすがたに
隙のないやさしさを湛へた御掌
愛のこぼれる光のみちてゐる おさとし
慈しみの全靈
わたしは 弱くて 怒りつぽくて しみつたれ
賤しくて 角の生やした魂をもちますれば
こんな おかたをひたすらに念じまする
汚れてゐるだけ より強く戀しまする

【石】
まづしさのなかへ 神さまがくださつたのだ
裕福な世界 華美なすがたといふものは
偏狭な愛だからである
萬遍に行届く 雲の匂ひ
ありふれた石をくださるのである
無像といふものは 間違ひ易いし 靈など信じられないからだ
形があるといふことは また夥しい不都合なことにもなるが
それはそれでいいとおつしやるのだ
それで眩しがつてはいけないと
神さまは ときおり おりてきては
そらのいろを惜氣もなしに拂ひのけて
安堵を與へてくださる深い慈悲なのである
誇りや豪奢なくらしは
この世に要るものではないと
氣位や名誉も勿體ぶることもないと
惰弱なこころをすててしまへと
どつしり落着かしてくださるのだ
默然と坐して 無條件でうけいれることができるようにと
豊饒な態度で應対できるようにと
あるときは 石の上に
圓光がたつことさへある
飾り氣のない拘束(かかはり)のない風貌といふものはこれだとお示しになるのだ
靈魂とか 人間の機能とか 知識とかいふものは
限りないといふ譯ではない
もつてゐるものは卑屈とか 小心翼々とした 無理もない執着ばかりである
それで この忘れられた世界へ
巖密な眼識を添へてくださる
眞珠にも勝る叡智の一點の賞詞である

【花は假面】
花は遠く眸(め)を伏せておもふもの
かりそめにも十年前の 八年前の
女などの追憶を呼ぶでない
あれを根として いくつ 別れたり歎きと
慟哭がくりかへされたことか
あの子は 町を追はれて ふりかへり 花の下から落ちていつた
じつくり黒い大地の花片をふんで 風呂敷包の古着を抱へて 惰落へ消えていつた
のんだくれ
大詐欺師
痴漢
宇宙を逆釣にした手品師
無頼漢にも劣つた浅ましい裝ひ
花は假面にすぎない

【屋根】
やさしい日本のゆふぐれの下に
つるされる まどゐ
うつかりするとはぐれそうなので
ともしびを たれる
わたしのねむりへ
明日の雲がかかるのです

【花の鍵】
夜は扉を閉めて
安らかな瞼の重みがたまる
めざめは風の中からでもくるのであらう
白さを挿して
花は 鍵なのである

【道】
あらくれた道に
僕の限りない歩みがつづく
母 僕の宇宙よ
見えるのは たたきのめした掟の道だ
鐵火の氣魄の満ちてゐる眼よ
一人では恐い
どこまでも無邊の愛で守つてくれ
僕の首途(かどて)を 不安のないように
いま やつと勇氣をもつた首途(かどで)のために

【地上】
生きとし生ける難澁の日の漂ひ
呼べば賢しい眉もくもる
さかくれた汚れの上に孤高の座をつくれと
おのれを拐(かど)はす小心
ひれふして手をすえるねがひは
信ずることのない蔑みを 峻(けは)しい拒みの縁に置く
恥ぢることばを知らぬ戒めは
あさましい けものゝけはいにながれる
かつては頼ることのみをいちどではなく
身寄によせたあからさまな愚かな訴へなど
昨日にして慊(あきた)らぬ
嘔きちらす 今日の潔癖がいきりたつ
なにを告げたとて
聽く耳をふさがれた無知な生き方
したがひは支配された穽(あな)の招き
はみだせぬ法の辱しめを歩く笑ひ
あるがまゝにうけいれるための白痴のよそほひ
ごまかしの慈悲が一環の鐵銜(くつわ)になる日を
なりたゝぬ大願に若さがにげる
あるひは怯むことのない刃をつきつけたとて
白眼で窺ふことははしたない

【無法道】
雲をみるまなこは疑ひの旗となり
憎しみが身性にさかだつ釘となる
信じるなど嘘
ごらん笑へばそのまゝ形相の牙と啀み合ふ隣人どもです
耳を被ひたい 拒絶をふみつぶす指弾
抗ひ募る荒々しさを谺する面構
忍辱の鎧をかくす獨尊の門
善美を容れぬ不法の法
眞(まこと)を捨て捨て素知らぬ背徳の空へおのれだけが在る
あなどりに多寡をくゝる石を撒くのです
阻みきれぬ惡を正しとたのみ
恥ともおぼえぬ傲慢です
斥けるためにふりみだす鬣(たてがみ)の放縦です
いぎたなくあらはれる逞しいかず/\の不實
血を洗ふおもむきに生き得て
いさかひを そしりを わめきを
またしても折敷く醜さに坐する隣人どもの自足です
白光の天 昨日の天はおのづとかくされ
不束な地上へ
もう いのりの白鹿(はくろく)は二度と來はしませぬ
千年の鶴は もう飛ばぬのです

【聲】
うまれでた清廉の證を笑ひ
ひと/゛\のわがまゝ とらはれの世へ
へだたりをきりつめれば
いつでも嘘であることの眩しさがのこされる
疑ひを洗ひ たなごころすあはせても
逆(そむ)きの一撃に ふりむかぬ良心の紛れは
行者のおきてに卑しい耳を藉(か)す
まやかしの雲の天
いつはりの花の棘
放埓は功徳を拒む身のやつれ
そよぐあきらめすら見せぬための齢に
まなこなげる聲がある

【友は死ぬのだ】
裏長屋の雲は ともすればあしのうらまで窺(のぞ)く
氣骨だけでは食はれぬものか
おれはふところの立志傳へ挨拶する
木枯しの咳(しはぶき)をする さすればとげとげな微粒が刺りそうな病む友の肉體
けうは頬の骨ばかりに うそ寒い笑ひをみせ
山の威巖の白さを 母の肩ごしにみたといふ
もう十二月
自然の待機は順序正しく宇宙の方向に矢を標し
友は死ぬのだ
重い頸
重い背
眼底につぶりとつきつける もう白暮の層雲のかなしみ
聲もあげえぬ第六感が崩れる
友は死ぬのだ
黒い帽子をかぶる男は
落葉をかざす曲折(くねり)の多い家並へ歩く
捨鉢な度胸を貧乏な天に据え 捧げ
人間屑の體臭に舗道へ出る犬とよろける
友は死ぬのだ
喧騒は簡易食堂の扉の一歩前
動物が食慾を満す慌しい食器の音だ
さりとて一日は空席ではない
眞に占據する無爲の時間がある
夜は挑む半旗を翻し
豪然たる歩幅をもつてするたたかひだ
生きねばならぬ友は死ぬのだ
冬早い日に血塊を吐いて
埃だらけの疊の上で あのままで

【屋根裏】
厚つぽい雪の中に はりはりした寒さを
屋根の下では かう 素肌におしこんでゐる
青くまづしさを筋張して
箸のしづくの一滴に甘へる夜がきてゐるのだ
むすんだ帶がずるずるゆるんで
すすけた間借男の肋へ
なぜ めぐりあはせが こうなるのだ
かせぎはうすつぽいふとんに泌(しよ)んで
今日も三人の親子が曲らぬれーるへ
飢えをさびつかしたといふ
ひろい あつめれば限りない娑婆へ意地もなく泣ける日である。
 アタイン トコモ
 オランチモ
たつた今まで生きのびてゐるといふより仕方がないのだ。と。
先生のおしへたがるはなし
七轉び八起きとは あんまり重すぎるうそ
雪の中の學校 ふん
おらつちやゆくとこでない
いいか すみ子もチイヨも
みづッぱなをこきんと啜りあげろ

【家】
木枯しは骨ばかりを吹く
野良着の裾を編むまぶたの痛み
ちつちやい こころは心臓の音にもならない
くぢけてしまつて 人の中へ
よろけた腰さへ しやんとは立てず
弟の十三の奉公は ぐらつく獨樂の心(しん)
風に風がのり つのり
吹雪に吹雪が重なる日
軒に吊された凍えた旗に 餓鬼奴の聲がはげしく
抱きあげる子守唄に おろおろする父の若さ
錘をつけた雲 閉されたみち そらの
去る年も來た年もただむなしい足跡
ふみ荒されてしまつてみまもるなげき
いきどほりは悲しい氷
忍苦の躯をいたはる烈しいくらし

【竹について】
 まつすぐに歩け
 足竝を亂すな
烈しいたちあがりだ
雪をかちかち撥きとばし
この冬の符諜を
身慄ひしてそらへ向ける
苦節は幾年 かさなり落ちてきたか
父も子も竹になる 竹になる

【告別】
老少不定などと口にするな
約束をもちすぎる日本
明るい理解で冬を埋めろ
死んでたまるものか
北國に重い石を呑ませる冬の眼を抉り出せ
鷹揚に暇乞ひをして
僕は古い空へ
乗つかかつて歩いてゐる

【聳える】
匇忙のうちにはづされた山容
毅然たるものは動かないのか
年輪に重なる不抜の意表は
地上に布(し)く高さ
慌しさを端(ただ)す默許
願ひ切なる言葉を知らぬため
低調といふもよし 俗惡といふもよし
その中に埋れて
聳えるものへ 火蓋をきる

【花の裝】
靄の中から咲いたのであらう
雫にうたれて 身をすぼめ
その聲に聞惚れてゐる そゞろ歩きの夜
しつとり音もせぬ おほらかな
あしもとからひろがつていく妖し氣なものかげのはためき
まぶたをほそく瞠けば
忘れられてゐるほのかな靈を呼びかへすもの
體温をけした煙にさゝげる
香華のかほりに貌をそむけては
なほ慕ひつのる そこはかとみだれ舞ふ
はかない夢のまたゝきにもにて
ばらばらくづれるけはい
遠いかしこへひたすらに誦(じゆ)するうたごえをはりあげようと
いつしんに追ひすがりたいおかたがある
誰だかわからない
年老けた人のようで
若い艶々しい圓味のあるおとめのようで
なげき深い喪服の奥さんのようで
蕪雑な花を手折る 荒々しいふるまひの若者のようでもある
微かな跫音を拾ひながら 幾度か
そのお方に手を差しのべよとして
あまりにもたふといお方のようで
すぐまた手を曲げてしまふ
解れることすら出來ないように思へ
疑ふわけではないが この儘別れたくなく
なかばまぼろしのなかを辿り
見失ふまいとしてゐて
あのお方はどこへゆかれたであらう
いちめんにそこらはとりちらされてゐて
わたしは默々とたちすくまねばならず
もう こゝ花の下はあの方の移り香ばかり
                         
【花明抄】
雲だか 光だか わからない
朧な白さにうなだれて歩めば
夜の聲が頸(うなじ)にしたゝる
月はないのかもしれぬ
むなしい天(そら)に群れる豫感のはゞたき
かの鶴は仙人の傳授(おさづけ)
ひよつとしたら それが月に坐したのかもしれぬ
ほとぼりのさめない白金の暈から雫れる
不老不死の韻かもしれぬ
透明な玉を愛でる掌のぬくもりであるかもしれぬ
人のない地心のにほひに 耳を傾げて
繚爛の杖を叩く跫音が聞えるようでもある
遣りすごしてしまつた まぼろしのうたのやうでもある

【ありがたう】
ありがたう
明るい大きな手をひろげて
迎へてくれることがどんなにうれしいことか
お互ひはもたないものをもちあはせて
伏面(ふしめ)がちにうちとける
にんげんの約束をまもることが
こんなにもしたしみをもつものか
じつと 動かない眸に
わたしはもう一つの眸をかんじる

【裏町】
いかめしい虚勢の家家よりも
この朽ちかけた歪んだ家家がなつかしく呼びかける
狭いそこらの空地に芥や塵が
生活のにほひをただよはしてゐる
ここに住んでゐる人たちは
貧しいけれどもみんなしつくりうちとけてゐる
誰も彼も飾り氣のない心で暮してゐる
疲れ果ててこの家家へ歸つてくる人たち
ほのくらい灯の下で
むつまじい夢を結ぶ人たち
さえざえと翌日(あした)はめざめる人たち
この人たちの顔はいつでも 笑ましくはればれしい
不満なんて この裏町の人生から切り離されてしまつてゐる
各々(めいめい)がいとなむ つつましい花のやうないとなみ
裏町はひつそりと慕しい屋根を張つてゐる
裏町を歩くことはうれしい

【こがらしのあと】
こがらしが わたつてくるのだ
いたいほど さみしい みぞれ
ひつそり ものおともない うらながや
 あれは どぶいたにきざむ さむさだ
 あ まづしさが きつとこんなにともるのだ
やま かは こえて
かたのやせたははが やみのなかからかぜとくる
くさをわけてくる こずえをならしてくる

【遠い瞼】
山はさびしく郷愁のなかにあつた
ふりかへれば かしこ 雲は重い追憶
のうのうと河はながれ
いぶかしい空の色
ときどき ひとすじに過ぎるとり
ふるさとはひとつきり
ふるさとは 肌の匂ひをつつむつばさ

【花】
板塀をこえて
まつしろく むらがる花
ひつそり まづしいものが
ここでおちあふのだ
みんなのおもひやりが
あんなにこぼれたのだ

【ふところ手】
ふところ手して
かへるゆふぐれ
みつけたこどもが とんできて
だまつてみあげて すがりつく
頭を撫(さす)れば
だまつて とんでゆく
うしろすがた